日々の慈しみ

両親が離婚することになった

0711

昨日の正午過ぎ、宅配が届いた。
宅配員に促されるまま印鑑を押すと、用紙がぐにゃりと凹んで上手く押印できなかった。荷物は柔らかく、父のもので、ネットショッピングで買ったであろうスラックスだった。

 

父が洋服に気を遣っているところを見たことがなかった。
休日に出かける時は、いつも母の選んだおよそ信じられないほど格好の悪い服を不満げに着ていて、サイズが合っていないと文句を言っていた。母は、これ以上大きなサイズなんてないとヒステリックに叫んでいた。

 

仕事帰りの父に遭遇した時、父は、昨日届いたばかりのスラックスを着ていた。
いつもはネットショピングで服なんて買わないのだ。なぜなら、父の仕事に間に合うように、母がクリーニングに出しては、受け取り、クローゼットにかけていたからだ。
私の母はそれをやめた。だから父は着る服がなくなって、急いでネットショピングでスラックスを買ったのだろう。

 

父が帰宅した時、私も母もリビングにいた。
ドアの開く音、玄関のベル、父独特の足音、二人ともしっかり聞こえていたから、静かなリビングに緊張が走ってお互い下を向いていたのだ。
帰宅しても何も言わず、そそくさと寝室へ逃げていく母は、父と目を合わせもしなかったから、知らないスラックスを着ていたとは気付かなかったと思う。

 

父の着ている安物のスラックスが床を引きずるほど長くて、私は泣きそうだった。
あんなみっともない服で、職場の人にどう思われたんだろう。
何にもできない父が丈をなおせるのかわからない。